2013年3月14日木曜日

ケルトミュージックと"Passages"

ケルト人というのは、おおざっぱに言ってゲルマン人がヨーロッパに入ってくる前からヨーロッパに住んでいた人々のことを言う。ゲルマン人によって駆逐された結果、ヨーロッパの辺縁にわずかに残ることとなった。

現在では主にアイルランド、スコットランド、ウェールズ、フランスのブルターニュ地方などに住んでいて、独自の言語や文化を持っている。

そういえば、「ウェールズの歌」なんていう曲もありましたね。これ、小学生が吹いてんの!?

で、"Passages"に色濃く反映されているケルト・ミュージックですが、これは、アイルランドのケルトミュージック(=アイリッシュ・ミュージック)に近いような気がします。アイリッシュ・ミュージックといえば、映画「タイタニック」の「3等船室でのアイリッシュ・パーティー」の場面で耳なじみの方もいらっしゃるのでは。アイルランドは近代になって深刻な飢饉(ジャガイモ飢饉)に見舞われ、アメリカに多くの移民を出しました。一説に1900年代初めには、アイルランドの人口は半減してしまったとも言われています。だから、タイタニックにも、多くのアイルランド人が乗っていたのです。(3等船室に乗っていたのは、移民の多くが貧しい人々だったから。)

で、世界で最も有名なアイリッシュ・ミュージックのグループと言えば、「チーフタンズThe Chieftains)」でしょう。当番がおすすめするのは、メンバーでもあるマット・モロイ自身が経営するパブでのライブ、その名も”Live from Matt Molloy's Pub”。ここにはありませんが映像で見ると、狭いパブにぎゅうぎゅう詰めになって演奏しています。元来こういうスタイルでやっていたみたいですね
それから、"The Donegal Set"も、アイリッシュ・ミュージックの特徴をよく表しています。"set"とは何曲かのメドレーのことを言うようです。曲が変わるときにテンポも拍子も変わったりするのですが、指揮者もいないのにどうして揃うの?と、いつも驚きます。もちろん、譜面なんか誰も見てないんですよ。

で、このケルトミュージックたるアイリッシュ・ミュージックがアメリカに渡り、アイルランド人のコミュニティーで演奏されるようになります。それにバンジョーなどが加わり「ヒルビリー・ミュージック」となり(これは楽しそう!)、歌も加わって「カントリー・ミュージック」となります。さらに黒人音楽発祥の「ロックンロール」と融合して「ロカビリー」となり、そこから出た不世出のスターエルヴィス・プレスリーがミュージシャンたちに衝撃的な影響を与え、今日のアメリカン・ミュージックができあがった、というのが大まかな流れです。

つまり、現代のアメリカン(ポピュラー)ミュージックをさかのぼってたどっていくと、ケルトミュージックにたどり着くという図式がこれでおわかりになるでしょう。

"passage"という語を辞書で引くと、「音楽のワンフレーズ」という意味とともに、「時間の経過」とか「移住」「航海」「変遷(へんせん:移り変わり)」などの意味があります。

スウィーニーは、現代アメリカ音楽の祖先であるケルトミュージックが、アイルランドから「航海」してきた「移住」者によってアメリカにたどり着き、「時間の経過」にともなう「変遷」により自らの血肉となってこの「音楽のワンフレーズ」になった、ということを表現しようとしているのではないでしょうか。時間的にも空間的にも、実に壮大ですね。

そう考えると、よくできたタイトルだとは思いませんか?

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